平成26年度第1回症例検討会が終了しました。

症例検討会 概要報告

〔第1症例〕

【題名】

集団災害事案を経験した消防職員の認識

 

【はじめに】

 A消防本部は、職員数130名の小規模消防本部である。年間平均消防隊出場件数は40件程度、救急出場件数は1,600件程度である。比較的災害発生の少ない地域であることから、自然災害や集団災害への対応に精通した職員は少なく、現場経験も多くを重ねることが難しい状況である。また、大規模災害や多数傷病者発生事案対策マニュアルは未構築であったなかで、竜巻災害を経験したので当時の活動内容と、現在の対策について報告する。

 

【事例】

 災害発生地点を管轄するA消防本部では、部隊の増強、近隣消防本部応援部隊との活動、医師の現場派遣要請、DMATへの出場要請などを行いながら、各機関と協働・連携して災害対応を行った。

 

【考察】

 後の検証において、初動体制や部隊活動において膨大な反省材料が挙げられた。その中で職員個人の知識及び技術の未習得によることも多くあったことから、個人レベルや各小隊レベルでの勉強会の開催、消防本部として指揮隊の創設や、装備品の充実、全職員対象にした大規模災害時における消防活動研修会の開催等を継続して行っている。ベテラン職員の大量退職を迎えた現在、若年職員へ一層の教育が必要となっている。

 

【ディスカッション・フロアからの提案・質疑】

・当時の消防機関が策定していた集団災害マニュアルや教本の多くには、一次トリアージの現在の方法の記述はまだ一般的ではなかった。

・トリアージタッグも各機関で変更と改良がなされてきて、手順がわかりやすくなっている。

・一部の消防機関では、現場到着順に活動が迅速に行えるような共通の手順書が部隊到着順に制定されている。

・今回の死傷者の状況から、死亡判断が現場において混乱なく遂行できたことが、重症者を迅速に医療機関に搬送できたことは考えられる。


〔第2症例〕    

【題名】

不搬送扱いとした傷病者が心肺停止状態で再度救急要請された症例

 

【概要】

 今回我々は、嘔吐、吐血症状との要請内容で出場し、ショックバイタルであったにも関わらず、搬送先医療機関が決まらず、家族の希望により不搬送扱いとしたが、心肺停止状態で再度救急要請された症例を経験したので報告する。


【隊編成】

救急隊長:消防歴3年救急救命士運用歴3年(消防士長、隊長代理)、救急機関員:消防歴数年(消防士)、救急隊員:消防歴数年(消防士)


【要請内容】 

 某日夜、50歳代女性、既往症にうつ病、アルコール依存症。傷病者は、禁酒されているにもかかわらず、家族が外出している隙をみて飲酒し、その後から嘔吐症状が出現。嘔吐を繰り返し、はじめのうちは水様性であったが、吐血したため家族が救急要請したもの。


【救急隊接触時の状況】

 傷病者は自宅居室内で家族に付き添われ仰臥位。意識レベルJCSⅠ-3でアルコール様臭があり、極度に痩せていた。手のひら一杯程度の吐血をしたため救急要請したと夫より聴取。家族は比較的落ち着いた様子で状況把握、病態把握に苦慮することは無かった。吐血は家族が処理したとのことであったため、救急隊は確認することができず。主訴はふらつき感、JCSⅠ-3、呼吸24回、脈拍125回、血圧8756mmHgSPO2 97%、体温35.0℃、瞳孔3.0×3.0(鈍/鈍)。全身に複数の打撲痕あり。血圧低下を認めたが、普段から血圧は低いとの申し出があり、ショックと判断せず。


【病院選定】

 消化器対応可能医療機関選定を判断。しかし、本人がうつ病とアルコール依存症があり、翌日に入院する病院が決まっており、そちらの病院への搬送を家族が希望したため、救急隊が病院連絡を実施。入院予定ではあるが、吐血症状を伴っており、精神科のみの病院であるため、受け入れられないと回答があり応需不能。消化器対応可能医療機関を市内で選定し、病院連絡するも応需不能。市外の病院選定を行う旨を伝えが、傷病者の容態に変化がなく、市外の病院へ搬送となると通院するのが困難なため、翌日近医を受診する旨の申し出があり、救急搬送を辞退。容態に変化があった際は再度救急要請する旨を伝え引き揚げた。なお、病院選定に要した時間は約1時間30分であり、その間、傷病者は傾眠傾向であったが、呼びかけると容易に開眼し呼びかけに応じた。その他のバイタルサインに大きな変化はみられなかった。


【翌日の救急要請】

 朝、傷病者の枕元に吐血痕があり、呼びかけに反応なく、呼吸もしていないとのことで家族より再度救急要請。救急隊接触時、心肺停止状態、救命救急センターへの搬送となった。

 

【考察】

・様々な要因が重なり搬送困難となったが、ショックバイタルは、傷病者の生命を救うという事から絶対に外してはいけない点であるため、搬送すべき症例であったと考えられる。

 

【ディスカッションポイント】

  救急隊接触時のバイタルから、ショックと判断すべきであったか?(この傷病者の病態から考えられることは何か?)

・救急隊接触後の活動で何か改善すべき点はあるか?

・病院選定時に何かできることがあったか?

・この症例から得られる教訓は何か?

 

【ディスカッション・フロアからの提案・質疑】

病院選定に関して

  消化器選定のみの選定をしているが、搬送が困難であれば、転送も考慮した病院選定をしても良かったのではないか。

  受け入れ要請時にデメリットとなるような内容は言わない方が、受け入れを 

してもらうには良い。しかし、病院到着後に、そんな情報は聞いていない、そのような症状があるのではウチでは診察はできないなど、医師との信頼関係を失うことにもなりかねない。そのため、経験のある先輩方の搬送困難症例に関するプレゼンテーション方法を集約し提案しても良いのではないか。

  病院連絡の記録はしっかり取っておく。(例、応需不能となった医療機関、時間、医師の氏名など。なお、医師の氏名をフルネームで聞くことにより、その情報に責任を持たせる。病院連絡の医師に対するプレゼンテーションの仕方により、受け入れ可否に影響があると思われる。今回の症例においては、経験の浅い救命士であったため、病院連絡時の説明が十分では無かった可能性がある。)

救急隊の観察について

  バイタルだけをみると、明らかにショックバイタルである。どんなに搬送困難な要因があったとしても、ショックはあくまでも搬送するという視点はぶれてはいけない。

  傷病者に打撲痕があったとの事から、虐待も考慮しなければならない。また、虐待が仮にあったとした場合、家族は傷病者は助かってほしく無かったとの思いがあり、搬送を辞退した可能性も考えられる。

  記載にはないが、傷病者の顔色はどうだったのか。ショックを見分けるポイントでもあるため、観察及び記録はしておくべき。


その他

  若い隊員編成であるため、正確な判断が出来ていない可能性がある。今後も同じようなことが繰り返されないように、対策を考える必要がある。地域によっては、救命士免許を取得して就職した場合でも、5年間は現場経験を積んだのちに救急隊として運用をする地域もある。

  精神疾患を伴っていることから、福祉や保健部局との連携が必要である。

  救急隊の活動として問題は無かったのか?→今回は救急隊として、病院も選定し、家族の同意も得られていたため、問題はないはず。

  不搬送プロトコールは存在したのか。

  搬送辞退書に署名をしてもらうのは大切であるが、それが法的に保証されている訳ではない。

  不搬送により、心肺停止で再度救急要請された内容であるが、本事案を扱った救急隊は特に罰せられた訳ではない。

  救命の観察からいくと、もっと出来ることはあったのではないか。地域性もあるが消防本部としての体制の問題もあるのではないか。

  医師に助言要請をして判断を仰いでもよかったのではないか。しかし、現状として助言要請が行われているのは、それほど多くない。

  今回の症例を対応した隊員への、その後のケア(惨事ストレス)をするなど配慮が必要。また、おもてに出せない失敗例を共有することにより、惨事ストレスを軽減することに繋がるのではないか。

開催概要